2013.10.12

きまぐれリプレイ『かぼちゃの日』:前編

ちょっぴりお久しぶりのきまぐれリプレイ第7回、『かぼちゃの日』です。

りり様制作の楽しいハロウィンシナリオ。
続きからどうぞ。



「――それでね、諸聖人をお祝いする万聖節の前夜祭を『ハロウィン』っていうんだ」

「ハロウィン、ねえ…」

「子供達が仮装して、“お菓子かいたずらか”って聞いて歩くんだよ」

「…ふうん」

ユーリは欠伸をした。時刻は午後をだいぶ回ったころで、リューンの街には秋の高い空からやわらかく日差しがふり注いでいる。
澄んだ空気のなかには、甘い焼き菓子の香りと祭典を祝うにぎやかさが匂う。

それなのに、ミネルバは渋い顔をしていた。
足元のかぼちゃにつんのめりかけて、それを拾い上げると眉をハの字にさげた。


「…『かぼちゃの日』なんて呼んだりもするんだけど…」

ミネルバは無造作に転がったかぼちゃをそっと脇の樽の上によけて、あたりを見た。
まるで嵐が訪れた後のような惨状だった。
人影はほとんど見当たらず、遊び好きな街の住人が、かぼちゃの日を楽しむべく凝らした趣向が、あちこちでひっくり返ったり潰れたりしている。

視線を動かすとまた別の悲しげな顔をしたかぼちゃと目があった。
辿っていけば、それがひとつやふたつではないことがわかる。

見渡す限りの、かぼちゃ、かぼちゃ、そしてかぼちゃ――


ScreenShot_20131008_225626789.jpg

「…なるほど、親切な祭りのようだ。この僕にだって見れば分かるんだからね。
 それでお菓子を出さないとこうなるわけなんだな」

「…違うよう。ユーリにはもっと普通にお祭りを見せてあげたいのに、なんでこうなっちゃうかなあー!?」

かっくりと肩を落とす。
見渡す限りのかぼちゃの山があふれかえり、街はかぼちゃ色に塗りつぶされている。
対照的に、あたりにはほとんど人影が見当たらないという軽いゴーストタウンの様相を呈していた。

ユーリは頬を掻いた。


「ああ…いや、僕のことは気にしなくていいよ。人間の祭りを楽しむために外に出たわけでもあるまいし――」

「僕はよくない」

すっかりすねたミネルバはとぼとぼ歩き出した。
この頭の固い有翼人に外の世界のことを理解させるには、実際に楽しい体験してもらうのがきっと一番に違いないはずだ。なのに……。


「あ~~もう!聖北の神様のバカ!クドラ教のバカ!アッチャラペッサーー!!」

「わあこらこら、呪われそうだからおやめ」

その声はリューンの街並みにむなしく反響していった。





時刻をさかのぼること数十分前。
前夜祭の大騒ぎにそなえてすやすやと気持ちよく寝息を立てていた冒険者達は、突然宿の亭主にたたき起こされた。
事情をうかがうに(一方的に話されたのだが)、いたずら好きの子供二人が魔女にそそのかされ、街の人々を魔法の杖でかぼちゃに変えているのだという。
トムとジェニー、という名を聞いて幾人かは得心したようにうなずいた。
その二人といえばときどきこの宿を訪れる子供達で、娘さんとも顔なじみだった。


「なんとかしてこい」

という、よくある丸投げパターンである。
いつものようにツケを盾に蹴り出された冒険者達は、ぼやきながらも渋々リューンの探索を開始したのだった。

kabotya01.jpg

変わり果てた街の光景に唖然としつつも、空き巣を働こうとしていた悪漢をとっちめたりかぼちゃに話しかけたりしながら、かぼちゃの山を縫うように通りを進んでゆく。
山が多い方角――すなわち、犯人達が向かった方角ということである。


しばらくそうして歩き、一行の前に姿を現したのは一軒の瀟洒な屋敷であった。
リューンでも閑静な住宅街とされるこの場所には、あれほど溢れていたかぼちゃの姿もなく人っ子一人見当たらない。
いやに静かだ。おそらく此処が魔女の屋敷であろうと彼らは判断した。

設えられた呼び鈴にもノックにも反応はない。


「さてどうしましょうか」

「…ま、妥当に“いつもの”だろ?」

「やっぱりそうなりますか。……罠はないですが、鍵がかかってますね。でもこの程度なら――よし、開きました」

「さっすが。……じゃ、オレから入るぜ」

「気をつけて」

アサトは注意深く館へ侵入した。内部は薄暗く、陰気な空気が垂れ込めていたが、襲撃の気配は感じられない。
「オーケイ」と視線で仲間達へ合図する。
冒険者達が足を踏み入れた、その時――


「おわあ!?」

「――っ!?」

「な――二人とも!…わっ!」

突然、彼らの足下に暗闇が出現した。
ぽっかりと口を開いた――落とし穴だ。
先行したアサトとエルト、そしてとっさに手を伸ばしたサリマンの姿が消える。


ScreenShot_20131010_224026342.jpg

「…ちょっ、アサト!?」

「エルト!…サリマンさん!」

急いで駆け寄った3人の目の前で、穴は音を立てて姿を消した。

「閉じたな……」

「………」

残された冒険者達は呆然と佇んだ。
……ふと彼らの耳に、不愉快な哄笑が飛び込んでくる。


「やあい、ひっかかったひっかかった」

「!」

オレンジ色の頭部にくっついたマントが、ひらひらと宙を舞う。
けらけらと腹を揺すってばか笑いを立てているのは、かぼちゃの頭をした幽霊だ。


「けらけらけら。魔女の館へようこそ。俺様はとっても親切だからお前達に教えてやるよ!」

カボチャは笑いながら、お前達は魔女の館に閉じこめられた、と語る。
振り返ったシェリスが入口のドアに手を掛けると、入ってきたとき確かにあった鍵穴は消え、扉はいくら試しても開く気配がなかった。


「それから、落とし穴のことはもう考えたって無駄!魔女の館にやってきたお客さんに対して1回しか開かないからな」

――頑張って階段でも探すんだな!
耳障りな笑い声を残し、宙返りをするとかぼちゃの幽霊はふつりとかき消えた。


「…むー。やな感じのやつだね」

「ええ……でも、言ってたことは本当みたいですね。床には何もありません。魔法的な仕掛けかも」

シェリスが手袋の指先で床板をなぞりながら言った。穴が開いた形跡はもはやどこにも見当たらなかった。

「…音からしてそう深くはなさそうなのが救いだな。でも動けなくなっている可能性もある。
 奴の言う通り――癪だけど――降りる道を探そう」

それぞれ頷いて、3人の冒険者達は暗闇に足を踏み出した。





「つ……」

「…大丈夫ですか?」

「……ああ。そっちは?」

「悪くはありません。背中が痛いですけど……」

「そうか。お互い無事で何よりだ……」

半身を起こしながら、エルトはゆっくりと息を吐いた。
落下した高さはそれほどではなかったようだが、ひどく打ったのか右肩がびりびりと痺れた。


「まあこれでも結構なダメージですがね。おっさんにはきついですよ、ホント。…それで、立てます?」

「何とか」

「そいつはよかった。ゆっくりでいいですけど、…できればあと50cmくらいずれてあげてくれますか」

「………」

エルトが首をひねって顔を向けると、いい感じにクッションになったアサトがきゅうとのびていた。

「………。はやく気づけよ……」

「………。悪い」


しばらくして、立ち上がった冒険者達は天井を見上げていた。
サリマンが灯りを掲げて落ちてきた場所をじっと検分している。


「…無理ですね。ここからは上がれそうにない。別の道を探した方が良さそうです。
 …しかし、落とし穴にはあまりいい思い出がないなあ」

「別の道、か。西と東に通路がある……が?」

突然響いた剣戟の音に、3人とも咄嗟に身構えた。
音の源は西の通路からのようだ。念のため足音を殺して音源に近づく。
まず、強烈な甘い香りが冒険者達の鼻をついた。


ScreenShot_20131011_201636484.jpg

「…頭が痛くなりそうな匂いだな」

「そーか?うまそうだけどなあ。…それよりなにやってんだ、ありゃ」

「カボチャがカボチャに囲まれてるように見えますが」

調理台の前に、顔のついたかぼちゃが一人(?)立っているようだ。設えられた竈に食器棚。調理場だろうか。

「……襲われてるんじゃ?」

よくよく見れば、かぼちゃ頭が物言わぬ南瓜たちにじりじりと追い詰められている…。
そして、ばたばたとあわてて冒険者達の方へ駆け寄ってきた。

もちろん、南瓜を引き連れて。


「ぬわー盾になってー」

「ちょ、ちょっと」

かぼちゃ頭はするりとサリマンの背中に身を隠した。緊張感のない口調だが意外と逃げる動きは素早い。
そして、4体の巨大な南瓜がバウンドしながら冒険者達に迫っていた。


「って、かぼちゃでかすぎねーか!?オレの背丈くらいあるぞ……エルト、なんとかしてくれ」

「…南瓜が蜂の巣になっても良いなら、何とかしよう」

「よっしゃ、任せる!」

アサトは南瓜の群に突っ込んだ。

自分の役目は詠唱の時間稼ぎだ。先頭の南瓜を蹴り飛ばしてむりやり押し戻す。
両脇から追い越してきた2体の挟み込むような体当たりを――南瓜の上に飛び乗って身を躱した。
南瓜達はおたがいに衝突し、一部がくだけた。


「スットロいぜ、どてかぼちゃども!来い!」

南瓜を挑発して意味があるのか不明だが、ターゲットは自分の方に向いているようなので良しとしておこう。
南瓜たちの上を跳び回り、巧みに注意を引きつける。

そのうち、魔力をふくんだ、独特の気配を持つ風が渦巻き始めた。
詠唱が完成しようとしているのだ。


<万物の礎たるマナよ>

風が収束する。虹のような色彩を帯びた光が、わき出すようにエルトの頭上に展開した。
いくつもいくつも、水面が盛り上がるような動きを見せ、次の一言でそれがいっせいに決壊した。


<撃ち砕け>

キュン、と甲高い音を立てて光の筋が南瓜をつらぬいた。
解き放たれた魔法の矢の雨がそれらを砕き、緑や橙の欠片に変えてゆく。
『魔法の散弾』と呼ばれる呪文である。魔法の矢よりも威力は劣るが、相手と術者の能力次第では十分な手段だ。
砕かれた南瓜は嘘のように静かになり、動かなくなった。


「おおーすばらしいー。ありがとうありがとう」

サリマンの後ろからかぼちゃ頭がとてとてと現れる。

「お礼に南瓜をあげましょー」

「…いや、要らな――うわっ」

問答無用で大きな南瓜を押しつけられて、サリマンは軽くよろめき、渋い顔をした。
穴だらけの南瓜の上で身軽にバランスを取っていたアサトはひょいと飛び降りて、服の埃を払いながら言った。


「いやー、味方に当たんねーってやっぱり魔法すげえな。
 …ところでかぼちゃよ、お前はこんなとこで何してんだい?」

かぼちゃは首を傾げて、「提灯ジャックですー」と名乗った。

「ここでひたすら南瓜パイをつくってますー。今日は材料の活きがちょっとばかりよすぎましたねー」

「(材料だったんだ…)」

「手伝ってくれるなら南瓜パイおすそわけしますよー。失敗ばかりで困ってたんですー」

提灯ジャックは表情の変わらない顔でぱたぱたと両手を振る。
冒険者達は顔を見合わせた。




後編へ続く

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