2013.08.11

きまぐれリプレイ『フランシス氏は足を掻く』:後編

後編です。前編からお読みください。




「ヌヌの実、イェナン草、マニ酒…の3つか」

「いま手元にあるのはイェナン草だけだねえ」

薬を作る代わりに、3つの材料を手に入れてきて欲しい。そう条件を出したのは村長夫人だった。

昔父親の仕事を手伝ったきりだから記憶が曖昧なのよ――、一度はそうして断られたのだが、全員で頼み込んだ末、条件付きで承諾を得ることに成功した。
彼女の父親は、腕のいい薬師だったそうだ。
あのまじない師の父と村長夫人の父、ふたりは村の二大薬師と称され肩を並べたことがあり、たがいに仲が悪かったらしい。
先代からの確執が今にいたるまで続いている、というのが、どうやら彼女らのいがみあいの真相であるようだ。


「で……かなり奥まできちゃってるけど、大丈夫かな」

「酒蔵に使われていたという洞窟にマニ酒は残っていなかったからな。奥を調べるしか無いだろう」

松明の明かりを頼りに、冒険者達は石造りの通路を進んでいた。
かつかつと硬質な足音が響く。それほどに整備された――人工の遺跡であった。
エルトと並んで歩きながら、シェリスは周囲を見回した。


「ただの洞窟からこんな場所に繋がってるなんて、夢にも思いませんでしたね。今のところ危険はなさそうですが」

「…そうだな。だが入口の『魔法生物研究所跡』の記録が気になる。注意するに越した事は―――」

エルトは口を噤んだ。遺跡の突きあたりにたどり着いたようだ。
奥は大部屋になっていた。酒瓶が並んだ戸棚のほかに、椅子とテーブルが設えられている。ほかに……


ScreenShot_20130804_235501106.jpg

「ん?なんだ、おめえらは?」

飲んだくれた男が一人いた。

「…あんたは?」

「そうか…分かったぞ。おめえら、ウチの女房に頼まれて俺を連れ戻しに来やがったな」

一人が誰何したが、男はひどく酔っていてまともに話が出来そうにない。
やおら立ち上がると、女房なんて恐くねえぞ、返り討ちにしてやる、と叫んでフラフラと一行に向かってきた。


「くらえっ!我が家に代々伝わる必殺拳法…」

……が、千鳥足もいいところである。酔っぱらいは派手に壁にぶつかって、おうっ、と叫ぶと見事にひっくりかえった。
ポチッ。


「だ、大丈夫ですか」

「いててて……い、いけねえ!村長に押してはいけねえって言われているスイッチを押しちまった!」

「えっ」

確かにさっきポチッて音がしたけど。
酔っぱらいはすっかり青くなってしまい、どういうことか問いただす前に、酒瓶を掴んで脱兎のごとく走っていってしまった。


「…あれ?ねえねえ、あの人が持ってたの、マニ酒の瓶じゃない?」

「……いや、それよりもこの地鳴りは」

振動で、ぱらぱらと天井に張りついていた埃が降り注ぐ。
暗いためよく見えなかったが、目を凝らせば部屋の奥は格子で閉ざされた門になっているようだ。


「………」

――その奥から、嫌悪感を催す無数の羽音がわき上がった。

「……うわあ」

「…やれやれ、厄介な…」

「……どうします?」

硬質な金属のふれ合う音が段々と大きくなってゆく。
冒険者達は頷き合うと、じりじり後退しながら、すうっと息を吸い込んだ。


「―――走れッ!!」

その瞬間、わあんと鼓膜を嬲るような金属の羽音がいっせいに解き放たれた!
機甲の蜂の群だ――!






へえーあんたらよく無事に帰ってきたなあ。

村まで戻った一行が一部始終を打ち明けると、村の男は感心した様子で唸った。
遺跡の入り口はエルトが『魔法の鍵』によって錠をほどこしたため、誰かが魔法を解かないかぎりは大丈夫だろう。
念のため村人には、しばらく近寄らないよう注意をうながしておいたのだが。


「…ねえねえエルト、でもあれそのままだよね。機甲の蜂2,3体は壊したけど、危なくないかなぁ」

「知らん。無償であれだけの魔法生物を駆除するのは割に合わんな。解き放ったのはあのおっさんだ。…正式に依頼されるなら別だが」

「むっ、薄情」

「何とでも言え」

ミネルバの抱えたマニ酒の瓶がぽちゃんと音を立てた。村の男から預かったものだ。
『ヨシュアの奴がこれを渡してくれと言ってた』……ということだったので、おそらくヨシュアというのが先の酔っぱらいの名であろう。


「…チッ、しっかしあのおっさん次会ったらしばいてやろうと思ってたのに、いやしねえな。
 ご丁寧に逃げるとき鍵までかけやがって、こっちは二日酔い中のハードな運動でマジでリバース5秒前だったんだぞ」

アサトはいまいましげに掌に拳を打ち付けた。

「いや、二日酔いは自業自得だよね。鍵にはびっくりしたけど……
 まあ、申し訳なさそうにしてたみたいだし許してあげようよ。……それより」

「ああ、“ヌヌの実”がなあ…」

まじない師がヌヌの実を持っていたという話を頼りに彼女を訪ねてはみたものの、案の定にべもなく追い返されてしまったのだった…
アサトは肩を竦めた。


「とりあえず、おばさんにこの2つだけ見せてみっか?」

「…そうだね、報告もかねて一度帰ったほうがいいかもね」

ミネルバは頷いた。





「そうかい… やっぱりヌヌの実は無理だったかい」

冒険者達が今までの経過を報告すると、村長夫人は思案顔で首を振った。

「とりあえずこの2つでも出来ないことはないわ。やってみましょ」

「本当ですか」

夫人は頷くと薬作りの準備に取りかかった。
「昔の記憶を頼りに」とは当人の談であるが、竈に火を入れたり、臼やすりこぎを用意する手際の良さは、一行に期待をもたらすには十分だった。


「――その植物を渡して!」

「はい!」

「それじゃないよ、その右のやつ!次はマニ酒を入れて!」

「は、はい!」

「そんなちょびっとじゃないよ!もっとたくさん!」

シェリスは、助手として台所をぱたぱたと駆け回っていた。
残すは一工程。薬湯が沸騰したら、粉末にしたイェナン草を投入するだけだ。
熱気で噴き出した汗をぬぐう。その時、粉末の準備をしていたシェリスをふと夫人が制した。


「………」

…これは失敗だね。
真剣な面持ちで薬湯の様子を見守っていた村長夫人はそう言って首を振る。


「――もう一回やりましょう。マニ酒もまだ残ってますしイェナン草もまだ使ってません」

「何度やっても同じよ」

「………」

やはり、ヌヌの実がないと駄目か。
諦めが彼女らの上に影を落とす。
入口の扉が開き、誰かが上がり込んできたのはその時である。


ScreenShot_20130810_025540061.jpg

「おやおや、困っているようだね」

その人物が入って来ても、村長夫人は目を合わせようとはしなかった。
そこに立っていたのはあのまじない師の老婆だ。


「…ふん、あんたと違ってあたしは忙しいのさ」

「あいかわらず口が減らないねぇ……土産を持ってきたのに」

鼻を鳴らして、まじない師は片手に提げたバスケットをテーブルに置いた。
中には、小さな紫色の実をいくつもつけた植物が何房か入っているのがシェリスの目に映る。


「…これは、ヌヌの実?」

「たまたま森を歩いてたら見つけたんだ。使いなよ」

「……あたしはあんたの施しは受けないよ」

「別にあんたにあげるわけじゃないよ。この連中にあげるのさ」

「そんなことは分かってるよ!…だから礼は言わないよ」

あんたの礼なんか欲しかないよ、じゃあね――言い置いて、まじない師はさっさと去って行った。
「…ありがとう」。その背に向けてぼそりと呟いた夫人の声に、シェリスの尖り耳がぴくりと動く。


「(――まったく、どちらも素直じゃないんですね)」

偶然見つけたと彼女は言っていたが……あの様子だときっと、わざわざ森の中を探してくれたのではなかろうか。
その姿を想像すると、シェリスの口元はくすりと緩んだ。きっとどちらも、なんとなく仲良くしづらいだけなのだ。
村長夫人は一度おおげさに肩を竦めると、またてきぱきと身体を動かしはじめる。
シェリスも、それを手伝おうと後に続いて行った。






クファイン村からの帰路は冒険者達の足取りも軽く、3日ほどでリューンに帰り着くことができた。

「……あーつーいーよーー」

「親父さんエール、冷えたエールを……」

「おお…お前らか。ちょうど良かった。フランシス氏が来ているぞ」

「……………」

「……はいはい、水な、水」

無言の視線攻撃に亭主は皿を置いてすごすごと引っ込み、地下蔵から冷たい水を用意してくる。
よく冷えた水で喉を潤した一行は、ようやく人心地ついたように息を吐いた。


「こんにちは。薬は見つかりましたか?」

依頼人のフランシス氏が汗を拭き拭きやってくる。
ああ、忘れるとこだった、と緑色の瓶に入った薬をアサトは差し出した。


「おお…これですか。ありがとうございます。報酬を払いましょう」

「確かに。…ところで親父さんと何の話をしてたんだ?」

「あ…いや、実は外国に住んでいる友人に思い切って水虫の相談をしたんですよ。
 そしたら特効薬をくれて、それを使ったらみるみる治ったんです」

「…え?」

「それならわざわざあなた達に頼まなくても良かったなんて話をね…」

ScreenShot_20130810_034301232.jpg
▲(SenceOfDeath.mid)

「……フランシスさん」

アサトは一歩詰め寄った。

「な…何ですか、そんな怖い顔をして……」

「…使え。この薬を使ええええ!!」

「わー!そんな無茶なー!お金払ったからいいじゃないですか!」

サリマンは微妙な顔をしている。

「金の問題じゃねえ!金じゃ引き裂かれた心の傷は埋められねーんだよ!いいから使えーー!!」

「ひー!」


その暑い日の宿はいっそう騒がしく、依頼人が首を縦に振るまで、延々と続いていたという――


""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
【今回のくもつ亭】
cw_asato2.png「(ククク…オレが石碑の裏でカジノのコインを見つけたことに誰も気づいていまい…ククク)」
20130502060836bb2.png「あ、そうだ。これ預かっとくね。大丈夫お母さんが責任持って貯金します(ひょい)」
cw_asato2.png「!! 世界一信用できない言葉のうちのひとつ(inお正月)じゃねーかそれは!やめろおお!!」
20130502060936fb3.png「なにやってんだ君たちは……」
20130502060937db9.png「……しかし結果的には微妙なオチが付いてしまったな、今回の依頼は」
20130502060838464.png「そうですね…依頼人さんが使わないなら薬、もらっておけばよかったですね。サリマンさん」
cw_sariman.png「そうだなぁ、元々評判もよかったようだし、今でも売ればいくらかにはなっ……ん? 
         ……シェリス、ちょっと待ってください。私、実際は水虫じゃないがそこ忘れてませんか、ねえ」



改めて、たこおどり様のシナリオで『フランシス氏は足を掻く』でした。
本当は遺跡での脱出劇(or戦闘)が一大イベントなのですが、リプレイ上さっくり描写となってしまいましたので、実際にプレイして楽しむことをオススメします。
あと水虫容疑はプレイヤーが自由に選択できるため、あんな秀麗こんな秀麗にも水虫カミングアウトさせることが可能に!
誰が得するかはわかりません。はい。
出番は少ないですがさりげなくフランシス氏がお気に入りです。


掲載内容に問題がある場合、お手数ですがくもつまでお知らせ下さい。
対処致します。
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この記事へのコメント

どうも、オサールでござ~るです。

なんとなく来て読んでみたら、サリマンの不遇の扱いに涙が出ました。
まさか、バルドラさんもあのサリマンがこんなに不遇の運命を辿っているとは思いもしないでしょう……

でも、このメンバーだとあそこで喋りそうなのはサリマンしかいませんよね(シレッと)。
だから仕方ない事ですね、うん。


しかし、最後のオチの『大丈夫お母さんが責任持って貯金します』ネタには不覚にも吹いてしまいました。
これからも楽しみにしてます、頑張って下さい。
Posted by オサールでござ~る at 2013.08.12 00:54 | 編集

>オサールでござ~るさん
いらっしゃいませー!コメントありがとうございます。
サリマンはあのですね、その、けっしてひどい目に遭わせようとしているわけではないのです。
あれです、気が付くとこの手が勝手に。……サリマンさんごめんちゃい(軽い)。
作者様であるバルドラさんには気づかれている可能性が微粒子レベルで存在している可能性がありますが、もしかしたらバレていないかもしれませんので怒られるまでぜひ頑張りたいと思います。(ガッツ)
くもつ亭に来てしまったのが運の尽き…かもしれない。

読んで下さる方がいらっしゃるのはほんとにうれしいです!コメントありがとうございましたー!


P.S.くもつはサリマンが大好きです
Posted by くもつ at 2013.08.12 21:50 | 編集

ぜひ もっとやってください・・・
毎回シナリオチョイスがどツボ過ぎて腹筋がやばいですホント
Posted by バルドラ at 2013.08.14 20:42 | 編集

>バルドラさん

サリマン「……!?」

:(;゙゚'ω゚'): もうバレました……全国1000万のサリマンファンに怒られないようにしつつ、もっとやろうと思います…!(反省の色なし)
Posted by くもつ at 2013.08.14 23:34 | 編集
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