2013.08.06

きまぐれリプレイ『フランシス氏は足を掻く』:前編

きまぐれリプレイ第6回、『フランシス氏は足を掻く』です。
一気に上げたいんですがまた前編のみ……ううっ

続きからどうぞ。





「……あつ~い」

「炎天下で隊商の護衛は堪えるわ……親父さんエール、冷えたエールくれー……」

冒険者の宿、くもつ亭。
むわっとした熱気を纏いながら常宿に駆け込んだ冒険者の一行は、暑苦しいマントを脱ぎ捨てて、さっそくテーブル席やカウンターに沈み込んだ。


「ああぁ……宿の中も暑いよう。 …誰かカナンの魔剣持ってない?」

「……お前、持っていたらどうする気だ」

暑さに弱いミネルバは、すでに溶けそうなほどテーブルにぺたっとくっついている。
…まあ、確かに罰当たりな想像もしたくなるほどの炎天だと、エルトは思った。とりあえず冷たい水が飲みたい。
期待を込めて亭主を見上げる。


「おお…お前らか!ちょうど良かった。フランシス氏が依頼を持ってきてるところだ」

きわめて期待外れな言葉を放った亭主に、6対の視線が突き刺さる。

「……うおっ。なんだなんだ」

「水」

じろりと青い目を向けながら、ミネルバは機嫌の悪い獣のように短く唸った。
しぶしぶ引っ込んだ亭主が地下蔵から冷えた水を持ってきてやると、コップに注がれたそれを冒険者達は実にうまそうに飲み干した。
冬の間に蓄えた雪を解かした、きいんと冷たい水が、ほてった喉に心地よい。

…で、もういいか?
問いにミネルバは満足そうに頷いた。いまだに冷たいコップに頬がへばりついたままだったが。


「フランシス氏というと……あの大富豪の?」

サリマンがさりげなく水を向けると、亭主は首肯して隅のテーブルに視線を向けた。
広くなった額の汗を拭き拭き歩み寄ってきたのは、中年ほどとみえる恰幅のよい男性だった。
声をかけるタイミングを見計らっていたのだろう。


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「…ああ、こんにちは。暑苦しい所ですまないな」

エルトが席を立って挨拶を返した。
フランシス氏といえばコーヒー豆の輸入で財産を築き上げたいわゆる成り金である。
そんな身分の人間が何故冒険者の宿なんかにいるのだろうか?使いでは不都合があるのだろうか。

気を遣ったシェリスが窓辺から風精を呼びよせると、いくぶんかあたりの熱気が散っていった。


「…実はクファイン村という所に伝わる秘薬を入手して欲しいんです」

フランシス氏は招かれてテーブルの向かいに座ると、受けて下さいますか、と言った。

「詳しい話を聞かない事には何とも」

「あっ…失礼。私とした事が…話を急ぎすぎましたね」

フランシス氏は後ろ首に手をやると居住まいを正した。

「いや…少々言いにくいんですが…水虫の薬です」

「水虫!?」

「シッ!静かにしてくださいよ!周囲には秘密にしてるんですから!」

フランシス氏はあわてて短い指を立てて制した。周囲には内緒であるため、わざわざ冒険者に依頼を出しに来たらしい。
目的地であるクファイン村の情報もいくらか手に入れることができた。いや、むしろ彼が調べすぎていたため途中で制したくらいである。

相談した結果、彼らはこの依頼を受けることにした。
フランシス氏は低頭して一行に礼を述べた。


「くれぐれも私が水虫だという事は秘密にしておいてください」

釘を刺してフランシス氏は宿を後にし、一晩常宿で身体を休めた彼らはクファイン村に向けて出発した。





冒険者の宿を出て4日目の夜。一行はクファイン村と思しき村に到着した。
フランシス氏の話によれば人口は200名程度ということだったが、実際は多くて人口50名といった感じの寒村と見える。


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――とりあえず暗くなってきたし、今晩泊まるところを探そう。
彼らは頷いたが、めったに訪れる者もないのだろう、村には宿のような施設が見あたらない。
しかたなく家々を訪ね歩き、ようやっと村長の家ならどうだろう、との情報を手に入れ、その場所へ向かった。


「そうですか……遠いところをようこそはるばるお越しくださいました。
 何にもない家ですがどうぞゆっくりしていってください」

最悪野宿を覚悟していた彼らはほっと息をついた。
経験上、こうした田舎村といえば素朴で人のよい人たちか、ひどく閉鎖的であるかで極端に別れる気がするが、
少なくとも村長とその夫人については前者に近いようである。
同じく好意的に出迎えてくれた夫人は、さっそく夕食の準備のため、居間を出ていった。


「ところであんたら何の薬を探しに来たのかね?」

「水虫の薬です」

「ほほう…どちらの方が水虫なのですか?」

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「…えっ?」

思いもよらぬ質問に一行は顔を見合わせた。

「(…どうする。フランシス氏が水虫なのは秘密だった筈だ)」

「(でも、こんな田舎ですよ。暴露しても問題ありますかね)」

「(いや、田舎ってのは噂が回るのが早い。ナメちゃいけねーぜサリマン)」

「(そういうものですか……)」

「(ああ。田舎者がこう言うのだから間違い無いだろう)」

「(……お前も田舎育ちだよな!?エルト!?)」

ひそひそと相談をはじめた一行に村長は怪訝そうな顔をしている。

「(…じゃ、じゃあ僕らの中の誰かが水虫ってことに?)」

「(そうなるな)」

ミネルバの言葉をエルトが肯定した。冒険者達の間にピリッとした一瞬の沈黙が走る。
ユーリが伏し目がちに呟く。


「(……言っておくが僕は嫌だぞ)」

「(オレもやだ)」

「(……外れクジは御免被るな)」

「(私もちょっとね……)」

「(………)」

「(ぼ、僕もやだよ!水虫なんて)」

小声でやいのやいのと話し合う冒険者達。さりとてあまり時間をかけていれば村長に怪しまれてしまうだろう――
そんな中、決意したように一人の冒険者が顔を上げた。


「……あ、あの。私です。私が――」

「!?」

シェリスであった。一行の間に動揺が広がる。
今まさに、うら若き乙女が無辜の身を炎の中に差しだそうとしていた。水虫という名の、苛烈な炎の中に。
突然の出来事に立ちすくむ仲間達を尻目に、シェリスはキッと真っ直ぐに村長を見つめて答えようとしていた。


「私がみずむ――…」

「…いや村長、待ってください! …ええい、私です!私が水虫ですっ!」

「(!!)」

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▲犠牲になりました

「(さ、サリマンさん…!?なんて事を……!)」

「(サリマン……あんた、あんた漢やで……)」

アサトは思わず目頭をぬぐい、一行は雰囲気でこの英雄を賞賛した。

「な…何もそんな大声を出さなくても…たかが水虫くらいで」

しかし村長は戸惑っている。

「……ははは、ですよね」

サリマンは別の意味でちょっと泣きそうになっていた。



「…サリマン、痛ましい事故だったがこの村に滞在する間の辛抱だ。あとは忘れてしまえばいい」

「ええ、はい、そうしますね、はははは」

サリマンは乾いた笑みを浮かべて、明後日の方を見た。

「――過去の思い出は、自分で必要なだけ覚えていれば、私はそれでいいと思う」

「……急に悟ったような事を言うのはやめてくれ。不安になるだろう」

エルトはちょっと心配した。
そういえば、別に『恥ずかしいからナイショ』でよかった気がしたが黙っておいた。

一行は夫人が作ったあたたかいスープに舌鼓を打ったうえ、村長の言で酒までふるまわれた。
そうして気のいい村長夫妻と、冒険者達はけっきょく夜遅くまで飲み交わしたのだった。






「…さあて、どこからあたったものかな」

朝のやや涼しい空気を快く思いながら、ユーリは伸びをした。
さわやかな風の匂い。村落は緑深い森に囲まれ、陽光が通り抜ける広葉樹の葉がきらきらと光ってみえる。
人目さえなければ、きゅうくつなところで寝ていたぶん翼を思いっきり広げてやりたいところだ。


「うぐ…とりあえず聞き込み、うえっぷ……だろ、ユーリさん。おええ」

「…ああもう、だから君は飲むなって言ったのに」

「かたじけない……」

背中をさすられながら、アサトは不覚をわびた。完全に二日酔いである。

「…でもさ、酒盛りも悪くねーだろ?おかげで村長達から村の現状も聞き出せたし」

クファイン村の人口が200人余りだったのも、住民の3分の1が製薬で生計を立てていたのも、今は昔。
現在では、水虫の秘薬が残っているかどうかも怪しいという話だった。昨晩、飲みながら夫妻に聞いたのである。


「僕は酒盛りが悪いとは言ってないよ、単に君が飲み過ぎなだけだ。限度ってものがあるだろう…まったく」

「すいません……ついカッとなって、グイッといっちゃって……うっぷ」

よくわからん言い訳をしつつも、アサトら一行は聞き込みを開始した。
……当然ながら、結果はあまりはかばかしくなかった。
以前はどこの家にもあったという水虫の薬も、今は手がかりすら希薄な状態なのだった。




「…で、まじない師の家というのはあれですかね」

村中歩き回ったあと(といっても、そう広くはなかったが)、彼らは森の外れへやってきた。
村はずれにあまり村民と交流をもたないまじない師が住んでいるという話を聞いたためだ。
シェリスが古びた扉をノックすると、無愛想な声が「開いてるよ」と答えた。


「…おじゃまします」

質素な小屋の中には老婆がいた。村人の話通り、一人きりで住んでいるらしい。
一行が踏み入るなり、まじない師は神経質そうな眉間の皺をさらに深めた。


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「あんた達…村長の家からやってきたね。
 ハヌシャ草の匂いがする。この辺りであの植物があるのはあの家の庭だけだ」

「え?」

「あの女に何を吹き込まれてきた?悪魔に生贄を奉げる魔女とでも言われて来たんだろう?
 さあ殺せ!好きなようにするがいい!」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「…あんたをどうこうする気はない。俺達は水虫の薬を探しているだけだ」

「………」

エルトは普段通りの口調で静かに告げる。
まじない師は興奮を収め、あらためて一行をじろじろと検分して言った。


「ああ、村の連中が言っていた冒険者の連中かい。あいにく私は持ってないねえ」

仮に持ってたとしても、あの女の家に泊まったあんた達なんかに渡すものかい、と吐き捨てた。
どうやらこのまじない師と村長夫人との間には、浅からぬ因縁があるとみえる。


「でも、もしかしたら村にはまだ水虫薬の製法を覚えている人間がいるかも知れないよ。
 …聞いてみる価値はあるんじゃないかねえ」

「そうか。邪魔したな」

一行はまじない師の家を辞した。どうにも考えていたほどうまく事は運ばないらしい。
…まあ、それもいつもの事だ。冒険者達は気を取り直していったんクファイン村へ戻ることにした。





後編へ続く


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