2013.07.19

きまぐれリプレイ『交易都市の一夜』:後編

後編です。前編よりお読みください。




――午後7時5分 リューン市 商業地区

「(ルートは……)」

まず、中央北通りを通り、王宮前広場に到達。
次に官公庁街を縦断して南通りへ、という想定をアサトは頭の中で組み立てる。


「(…ま、そうそううまくいくとは限らねーけどな)」

官公庁街は道が複雑でなく、良くも悪くもわかりやすい。それが吉と出るか凶と出るかは天のみぞ知る…というところだが、
人目を避けようと慣れない路地裏を進んで追い詰められるよりはずいぶんマシだろう。
分かれ道をすみやかに駆け抜けて中央北通りを目指す。
日が落ちてなお人の絶えない通りに出ると、さっそく何人かの足音と、怒号が飛んだ。


「あそこにいるぞ!逃がすな!!」

「…チッ、さすが盗賊ギルド、仕事はえーな」

ちらりと振り返ると、武装した盗賊らしい男達が後ろへ迫っている。
いったん路地へ入るか、それとも人混みを突っ切るか――
ふと、疾走する先に、つながれた馬車馬が目に入る。

――あれだ!急ブレーキをかけて、アサトは思い切り馬の腹を蹴り上げた。


「…すまん、馬!思いっきり暴れてくれよ――!!」

ScreenShot_20130715_113734242.jpg

驚いて興奮した馬は猛烈ないななきを上げて、つながれていた手綱を振り千切り、街路を滅茶苦茶に走り出す。
そこかしこで悲鳴が上がった。混乱で人々がどっと逃げ惑い、盗賊達の姿が人の波に飲まれていく。


「(よし、このまま抜ける!)」

混乱に乗じて、アサトは通りを駆け抜けた。
王宮前広場がすでに目の前に迫っている。中央南通へ向かう道と、中央広場へ抜ける道。
リューン官公庁街を通って南通りへ。予定通りの進路をとる。
ここから先は道がわかりやすいだけに、迷う心配はないが、姿を隠すことがむずかしく、単純に足での勝負となるだろう。


「(腹、くくらないとな。……って)」

大通りとは打って変わって、この時間帯の官公庁街には人通りがほとんどなく、ひっそりとしている。
それゆえ、前方の道の真ん中にうずくまっている人影を発見するのはたやすかった。
…そして、なんとなくそいつに見覚えがある。


「……ビンゴ!!」

ScreenShot_20130715_114017407.jpg

「よおビンゴ、久しぶり!」

うずくまっていたのは、まさに下水道の蓋を開こうとしていた清掃局員、ダスキン・モップだった。
以前下水道の掃除を請け負った際の依頼人が、彼である。
この時間から下水道に入ろうとしているということは、またぞろアルバイトのドタキャンを肩代わりでもさせられたに違いない。


「ビ、ビンゴぉ!? ――って、あなた確か冒険者の。僕ビンゴじゃなくて、ダスキンって名前なんですけど!?」

再会を喜ぶような状況でもなかったので、アサトはひらりとその脇をすり抜けた。

「なんだよ、お前だってどうせオレの名前覚えて――― !?」

いや、正確にはすり抜け「ようとした」のだが。

「おわああああ!?」

間抜けなことに、冒険者はダスキンがタイミング良く開いたマンホールにすぽっとはまってしまった。
どすん、と鈍い音。 バタン!衝撃で、何事もなかったかのように下水道の蓋がきれいに閉まる。


「……あらら。何やってるんだあの人。おーい、大丈夫で――」

蓋を開いて確認しようとしたダスキンの後ろから、バラバラといくつかの足音が迫ってくる。
今度はなんだ?今日はえらくあわただしいなあ。


「おい、お前!ここ走っていった奴どこ行った?」

「え? えーと?その人ならさっき――」

下水道に落ちましたけど、とダスキンが答える前に、盗賊の一人がこっちに道ィありやすぜ!と叫んだ。
よし、行くぞ――リーダー格らしき一人の号令で盗賊達はあっという間に走り去っていった。
ダスキンは首を傾げた。


「…何だろう?リューン市主催鬼ごっこ大会でも開催されてたっけかなぁ?」





「(……くそ、ひでー目に遭った。ビンゴ覚えてろよぉ…)」

ミシミシと身体が上げる悲鳴を無視しつつ、アサトは下水道を駆けていた。
汚水に落ちなかったのは幸いだったが、代わりに石造りの通路にしたたか全身を打ち付けてちょっと泣きそうになった。
だが――


「(下水道は旧文明の遺産。リューン縦横に張り巡らされている……んだったな)」

文字通り怪我の功名、というやつか。下水道は、ギルドもノーマークのようだ。
いや、ある程度警戒はしているのかもしれないが、この迷宮のような下水道に下手に人員を割くことは、賢明とは言えないだろう。
ダスキンのおかげ……とは言えるが、まあ、それとこれとは別である。アサトは密かに復讐を誓った。


「ハァ……ハァ……」

気配を探る。どうやら下水道を通って追ってきている者はいないらしい。
腕を膝に支えてしばらく息を整える。ぽたぽたと垂れてくる汗をぬぐう。方向と距離からして、現在地は中央東通り付近だろう。
ク、と荒れる呼吸を飲み下して、出口へ通じる梯子に足をかけた。

ゴトン…
蓋をわずかに浮かせて、すばやく周囲をうかがうと、アサトはするりと猫のようにマンホールを抜け出た。
位置は――想定と大体相違ない。駆け抜けてきた目抜き通りの華やかさが嘘だったかと思うほど、景色は一変していた。

南へ向かって、黒々と歓楽街が横たわっている。
連なる軒は整然とは程遠く、人の気配は多いが、どこか見えないところで、ひっそりと無数に蠢いている。そういう底気味の悪さを感じる。
南に抜ければ、貧民街だ。至るルートは限られている。
――ここからは、何があってもおかしくねえな。
無意識に獲物の位置を確かめると、冒険者は暗がりに紛れた。



「(……やっぱりな。待ち伏せか)」

路地の先に、複数の人間の気配。アサトは舌打ちした。

「(貧民街は目と鼻の先だってのに……他の道を探すか、それとも――)」

「――いたぞ!今度こそ逃がすな!!」

「…チッ!」

ScreenShot_20130715_114254181.jpg


怒号とともに飛来したナイフが足下に突き立つ。こちらの位置はとっくにバレていたのだろう。
弾かれたように後ずさって、走った。
ぶちまけられたゴミを飛び越え、何度も何度も路地を曲がって、息が切れそうになる。
ちょうど裏口から現れてはち合わせた娼婦風の女がひっくり返ったが、構ってなどいられなかった。
――振り切れないのだ。
歓楽街は彼らの庭のようなものである。引き離したと思っても、すぐ後ろの路地から次々に追っ手が現れる。


「おい、あっちだ!回り込め!!」

「――!」

挟み撃ち。
前方は駄目だ。塞がれた。
戻るのも――無理だ。すぐ後ろに十数人の気配がする。


「くっ――そぉ!!」

アサトは傍にあった扉に思い切り体当たりした。
鍵は掛かっていなかった。投げ出されるように転がり込む。もうもうと埃が舞い上がる――廃屋だ。


「――馬鹿め、袋のネズミだ!」

追い立てられて、そのまま階段を駆け上がる。ぶつけた肩がズキズキする。
――袋のネズミ、その通りだ。二階の隅の部屋に追い詰められた。逃げ場はない。

アサトは立ち止まった。呼吸がおさまらない。


「――へっ、バーカ、てこずらせやがって。素直にブツを渡してりゃ、痛い目見ずにすんだのによォ」

数人の男が笑いながらじりじりと距離を詰めて来ていた。
アサトは、項垂れた。項垂れて、ふー、と深く息を吐いた。


「猫を……」

「ああ?」

「猫を噛みに来たネズミを、なめるんじゃない」

ガシャン、と硝子ごと窓枠が吹き飛んだ。

「糞っ!奴ぁ飛び降りやがったぞ!戻れーッ!!……!!」

… … …




「…それで、半日リューンを走り回ってたわけですか。とんだお使いですね」

「…ああ、まったくだ。ぐったりだぜ」

「お疲れさまでした、アサトさん。ご無事でなにより」

シェリスは、カウンターに突っ伏したアサトの背中をぽんぽんと叩いてねぎらった。

「いててて」

「あ、すみません」

「ほんと、ひどくやられたねえ。…ところで、結局その書類ってギルドには渡さなかったんでしょ?誰に渡したの?」

「………」

結局――
そう、結局書類はギルドに渡さなかった。
ギルドにたどり着くなり、姿を見せたのは例のフードの男だった。


――盗賊ギルドの一部は、確かにあの書類を欲しがるでしょう。
   ですが欲しがるのは彼らだけではない、と。そういうことです。

「(てっきり、ギルドの人間かと思ってたんだがな。…まあ、もしあそこでやりあっても勝てそうになかったか)」

「……ねえねえ、誰に渡したの?」

「え?…ああ、言えねーよ。そういう契約だ」

「えー。僕とアサトの仲じゃない!」

「……あのなあ。なんかその言い方やめろよな、おふくろ」

ミネルバは不服そうに首を傾げた。
ユーリがそれを諫める。


「こらこら、おやめミネルバ。信用が第一だってことは君の方がよく知ってるだろう。
 …でも、普通に考えたら、その渡した相手がウーティスじゃないのか?」

「…違うんだ、それが。誰なのかは言えないけど」

――本来、こういうことには向かない不器用な方です。
   神を信じる方というのは、そんなものかもしれませんね。

「(神を、ねえ)」

あの時、自分が差し出した封書をていねいに受け取った無骨な手を……アサトは、思い出していた。


""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
【今回のくもつ亭】
cw_sariman.png「…あの、なんか見覚えのない店から請求がきてるんですが」
20130502060838464.png「…? 商業区の八百屋さん?」
20130502060937db9.png「アサト宛になっているが」
cw_asato2.png「…えっ。も、もしかして治安隊から逃げるときに荷台ひっくり返しちまった店の、おばちゃん…?」
20130502060936fb3.png「1000sp…って、結構な額だなあ」
20130502060836bb2.png「せ、せ、1000sp!?何やってるのー!? もうこの先1000sp分ご飯抜き!!」
cw_asato2.png「が、餓死するわ!勘弁してくれえええ!!」


改めて、蒼馬様のシナリオで『交易都市の一夜』でした。
初挑戦時、ノリノリでプレイしていました。それにしてもこのくもつノリノリです。
今回はダスキンに会いたいがためにこのルートになりましたが、他にも魔術師にとっ捕まってボコボコにされたり、かくまってくれると見せかけて売られてボコボコにされたり、楽しいイベントが盛りだくさんの一本です。
…そういえば、現在は公開されていないのでしょうかね。残念…


掲載内容に問題がある場合、お手数ですがくもつまでお知らせ下さい。
対処致します。
web拍手 by FC2
この記事へのトラックバックURL
http://kumotsu.blog.fc2.com/tb.php/45-63c225b1
この記事へのトラックバック
この記事へのコメント
管理者にだけ表示を許可する