2013.07.17

きまぐれリプレイ『交易都市の一夜』:前編

きまぐれリプレイ第5回、『交易都市の一夜』です。
とりあえず前編のみ!今回はソロシナリオになりました。

続きからどうぞ。



――午後3時55分、リューン市 商業地区

冒険者は走っていた。
雑踏をすり抜け、路地を駆け、住宅街にさしかかろうとする辺りでようやく足を緩めた。
うしろを振り返る。そこにはいつもと変わらぬリューンの活気ある雑踏が行き交っているばかりである。
足を止めるととたんに汗が噴き出した。人波を外れて、路地裏のすこしひやりとしたレンガの壁に背中を預ける。
眼を閉じて、はあはあと弾む息を抑えつける。…どうにか、振り切ったようだ。


「(…ったく、とんだ鬼ごっこだな)」

書類配達の依頼、と聞かされていた。
これが書類配達ならば、郵便局員はたぶん過労死続出だ。そうアサトは思った。
とっさにグシャリと突っ込んでしまった封書を、ポーチから引っ張り出す。


――あなた とにかく追っかけられるわ。捕まえられたら、仕事は失敗よ。

女はそう言った。そしてこの有様である。今のところ、『鬼』は治安隊だった。だが、鬼が彼らだけであるとも限らなかった。

「(…次は中央広場の聖北教会だったか?走ったけど、だいたいの方向が間違ってないのは幸いだったな)」

ひとつ大きく深呼吸をして、壁から背中を引き剥がした。あまりもたもたしていられない。
人目に付かない道を選びながら、アサトは歩き出した。




依頼人とは、午後3時にリューン北門で落ち合うという予定だった。
急な依頼ということで、常宿から走り詰めて来たのだが、時間きっかりになっても依頼人は姿を見せない。
しばらくして現れたのは、封書とメモを持たされた子供が一人きりだった。


ScreenShot_20130715_111447270.jpg

“ 紫陽花通り 『榛の木亭』の亭主に封書を渡されよ ”

依頼人の名はウーティス。わかったことは結局それくらいだ。
訪れた『榛の木亭』では、女が一人待っていた。彼女もまたウーティスではなかった。
仕事の話をする、として散々世間話に付き合わされたあげく、「聖北教会の司祭へ」として封書を一通渡し女はさっさと立ち去った。
どうやら指名手配犯であったようで、彼女を捕らえようとした治安隊とはち合わせ、鬼ごっこをくり広げることになった……というわけである。


「(思えば、オレを追わせるために時間をかせいでたとしか思えねーな。目的はわからんが)」

アサトは中央広場に聳える大聖堂を眺める位置までやってきていた。
時刻は午後4時35分。
治安隊はふりきったとはいえ、彼らが冒険者を探していることは街中でも噂になっているらしい。しばらくは身を潜めた方が賢明だろう。


「(ま、とりあえずこいつを届けてから、だな)」

リューン一の規模を誇る教会だけあって、参拝客には事欠かないらしい。アサトは旅の巡礼者らしい一行に紛れ込んで聖堂へ向かった。


「私に用があるというのは…あなたですか?」

修道女に「司祭を」と伝え、現れた男にアサトは封書を差し出した。年は壮年にさしかかろうか、頬骨のとがった、真面目そうな印象を受ける男だった。
司祭はていねいに封書を受け取ると、少し考え、ややあって「少し時間をいただきます」と如才なく断った。
そのあいだ祈りを捧げていけばどうか、という神官らしい提案に、アサトは頷いた。


「祈りどころか。告解させてもらうよ」

懺悔室に滑り込んで扉を閉めると、アサトは耳をすました。
すんでの差でやってきた治安局員と司祭が言葉を交わしている。
冒険者を捜している、との言葉に、「見かけたらご報告しますよ」――司祭がそう答えているのが聞こえた。
しばらく経って、司祭の呼ぶ声にアサトは懺悔室の扉を開いた。


「これを、あなたに」

ScreenShot_20130716_222230722.jpg


“ 本日午後7時に北門にて書類を渡す。

 その書類を木馬通りの『黄金の林檎亭』亭主まで配達すべし ”


「私への用は以上です。ご苦労様でした」

「………。司祭様」

「なにか?」

「知ってるなら教えてくれ。ウーティスってのはどんな人なんだ」

「申し訳ありません。私には、その人のことを話すことができません」

司祭はきっぱりと首を振って、どうぞお引き取りください、と促した。
アサトは息を吐いた。今までの彼らのようになにも知らないのか……
だが……


「そうするよ。だがオレは罪深いから悔い改めることが多くてね。もう少し告解させてもらうよ」

約束の時間は午後7時。懺悔室の扉が閉まるのを、司祭は咎めることをしなかった。



――午後6時45分 リューン市 北門

「(早めに来たのはいいが……早すぎたか?)」

冒険者は再び北門へ戻っていた。この時刻になっても相変わらず人通りは多く、雑踏、話し声、馬の蹄の音、そういったものが溢れかえっている。
アサトは振り返った。雑多な気配の中、明らかにこちらに方向を定めている者がいる。
立っていたのは初老の、目立たない男だった。


「…アンタかい?その、ウーティスって人のお使いは?」

「お使い… まあ、広く言えばそーなるな」

少し距離を置いて伺うように冒険者を眺めていたが、アサトがそう答えると、白いものが混じる頭を掻きながら安心したように近づいてきた。

「いや、このあいだの人とは雰囲気がずいぶん違うからさ。
 変更の連絡も急に来たし不安になってね。それで、少し早めに来たんだ」

アサトはそうか、とだけ頷いておいた。
以前にウーティスと彼の間にどんな取引があったのかは知ったことではないし、変更があったという事についても、そうなのかとしか思わなかった。


「これ、頼むな。中に入ってるから。それじゃ」

封書を渡すと、男は雑踏の中に歩いて行ってしまった。
アサトは封書を裏表してあらためるとポーチへしまい込み、さて、と街路へ向き直る。


「(配達先は歓楽街の木馬通り。
 ここからだと中央広場を通るか、住宅街を抜けていくか、官公庁街を通るか、だが…)」

と、突然後ろから何かにぶつかられて、アサトは軽くゆらいだ。

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「おっと、ご免よ」

そそくさと人混みに紛れようとする男の腕をアサトはすばやく捻り上げた。男は悲鳴を上げる。

「イテテテテ、放せ!何しやがる!」

「放してほしけりゃアンタが今懐に入れた封書、返すんだな。でなきゃ――」

さらに力を込めると、メキメキと骨が軋む音がした。男はたまらず飛び上がって返す、返すとわめいた。
舌打ちして去っていったチンピラの姿を見送って、あらためてきちんとポーチの中に封書をしまい込む。


「(明らかにこれ狙い、か。盗賊ギルドの連中だろうな。こいつは思ったより厄介な――)」

気を取り直して、今度こそ出発――と思ったところで、今度は甲高い悲鳴がさし向かいの路地から聞こえてきた。
「殺しだ!」「こりゃぁひでぇ、血まみれだ!!」何人かの怒号。

――まさか。
アサトが人混みをかき分けながら近づくと、そこには先ほどの――封書を渡しに来た初老の男性が倒れていた。


「………」

見る限り、真正面から一撃で殺害されている。かなりの手練れだとは思われるが、盗賊のやり口とは思えなかった。
しばらく遠目に死体を検分していると、アサトはそばにふと気配を感じた。


「貴方、こちらへ」

フードを目深に被った人影は、男の声でそう囁いた。

「――ウーティスの使いです」





「つまり、だ。
 オレはそもそも囮で、ダミーを持たせるつもりだったが手違いで本物が渡された、と…そういうことか?」

「そういうことです」

フードの男と冒険者は、少し奥まった路地へ場所を移した。
リューンはすでに日没を迎え、また先ほどの騒ぎのために出歩く影もほとんどなく、辺りは暗闇に沈み込んでいる。
男の言うことを鑑みてみれば、たしかにつじつまは合う。
アサトが治安隊に追われるよう仕向けた女。また、殺された男が言っていたことも、何らかの工作が行われたと取ることができる。
封書をひらひらと弄びながら、アサトは使いの男に問いを浴びせた。


「こいつの中身はなんだ?本当に単なる書類か?」

「本当に単なる書類です。某大臣を失脚させるのに足る証拠となるものです」

「具体的には?」

「ありがちですよ。盗賊ギルドに要人暗殺を依頼しているのです」

…あの庶出大臣か。そこまで詳くはなかったが、その話でなんとなく思い出す顔があった。
あるいは、エルトならば知っていたのかもしれないとかすかに思う。


「…だが、あいつが政敵に毒盛ってるのは公然だし、それに、毒盛るのにはギルドの連中使ってるんだろ。
 そのギルドが書類を狙う理由は?」

「ギルドも一枚岩ではないのですよ。顧客は一人ではないのですからそのほうが都合が良いこともあります。…さて」

事情もあらかた話したことですし、書類、お返し願えませんか。
アサトはふう、と息を吐いた。


「やだね」

「何故です」

フードの下から、男がじっとこちらをうかがう気配を感じる。

「あんたを信用できない」

「信用していただけなくても構いませんが。
 しかし、どうするのです?それを持っていてもギルドに狙われるだけですよ?」

「一部にはそうだろうな。でも、他の一部はこれが欲しいんだろ?
 ましてや仲間内で相反する奴らがいるとなると、そいつらには絶対渡したくねーはずだ」

「…というと」

「届け先を変更するんだよ。盗賊ギルドにな」

「……彼らは、それなりに員数をかけて書類を取り返しに来ますよ。
 貴方の命を奪うことも選択肢に入っています。それでも、ですか?」

「今さら脅しても無駄だぜ。あんた、そもそもオレを囮として雇ったんだろ?」

「…貴方、長生きしないでしょうね」

フードの男は音もなく路地の闇に姿を消した。
ギルドは貧民街、リューン市のほぼ南端に位置する。
…徒歩でリューン縦断はさすがに初めてだな。慣れた市内の経路を頭の中でシミュレーションしながら、アサトは静かに駆けだした。




後編へ続く


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