2013.06.30

きまぐれリプレイ『ニキという人』:前編

きまぐれリプレイ第4回、『ニキという人』です。
サリマンがかわいそうな目に遭う主人公の回です。続きからどうぞ。


         <アニキ>       

 筋肉美に人生を捧げた男達が互いを呼び合う呼称。または、そうした男達の総称。





「…へえ、サリマンは今度の依頼人と知り合いなのか」

「ええ、以前闘技場で会いまして。……ニキはね、少々頼りない感じの人ですが…自分を磨くんだと張り切っていましたよ」

そう、サリマンと“私”には面識があった。懐かしい。あれはブラザー・ハーゲンと出会う前のことだ。
今回わざわざこの宿に依頼を出したのは、懐かしいわが友を頼ってのことでもあった。
それにしても昔の自分の話を持ち出されるのは、少々、照れくさいものだ。私はあらためて彼らに向き合い、にっこりと微笑んだ。


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▲デデデーン(戦闘.wav)

「HAHAHAHAHA!!久しぶりだなサリマン」

「……で、サリマン、こちらの方は」

魔術師然とした青年は私の方を一目たりとも見なかった。長身だが実に軟弱そうな男だ。
この眩い筋肉を直視できない気持ちはわからなくもないが、なんとも失礼な奴である。


「知りません」

久方ぶりの邂逅とはいえ、友の顔を見忘れてしまうとは情けない。だが、それもまた人間という生き物の悲しさなのだ。
私はおもむろに上腕二頭筋を盛り上げた。伝統のポージングである。


「…サリマン、他の客に迷惑なんだが」

「いやだから他人ですって、親父さん」

ここまでしても私を思い出すことができないらしい。仕方ない。私は二人しか知らない事実を幾つか話した。
サリマンはいくぶん驚いたようだった。が、まだ半信半疑の色が表情に滲みかえっている。
私はさらに幾つかの事実を語った。沈黙が宿の中に落ちる。


「…………ニキ!?」

「だから、そうだと言っているじゃないか、ブラザー!

私は喜んだ。懐かしい友へ親愛の情を込めて両手を広げてみせる。丸太のような腕だ。
これもたゆまぬエクササイズの成果である。おそらく、いまサリマンの脳裏には以前の私と現在の私が猛スピードで去来しているのだろう。
彼は精神に混乱を来したようだ。サリマンはすっかり頭を抱えてしまった。


「依頼の話を、続けさせてもらいたいのだが?」

「は、ははは……そんな、声まで変わって……」

宿の給仕の娘がすごく心配そうにブラザーを見ている。

「……え、えっと、わかったよ!依頼の話は僕が聞くから」

見かねたようすで、マントを羽織った黒髪の娘が一歩前に出てきた。マントの下には荷物でも背負っているのだろうか、のっそりとしたシルエットである。
しかし、小柄な体躯に似合わずなかなか眼光鋭い娘だ。冒険者パーティの一人なのであろう。


「知ってのとおり、依頼内容は人捜しだ」

「リューンでハーゲンって人を探せばいいんだね?」

そうだ、と私は頷いた。
ブラザー・ハーゲンは私の元を去った……、それは彼の自由だ。だが、私は先日ハーゲンを見た。トルキシャ街へ入っていくところを見たのだ。


「トルキシャ……つまり、その人は暗黒街の住人になった、っていうことかな」

そうだ。おそらく、そういうことなのだ。顔を利かせねば生きてゆかれない世界。
――ニキ、群れを作るのは弱いからだ。本物の筋肉を身につけたなら、群れは必要ない。
そう言ったのは他ならぬハーゲンだった。あの時、曲がり角に消えて見えなくなる瞬間、彼は確かに、私に向かって笑っていたことを思い出した。
怒りと悲しみで大胸筋が震えた。私はそれをいまだ忘れえない。






「初手からトルキシャに乗り込むのは危ないですね。まずはここいらで聞き込みましょう」

我々はリューンの街へ出た。聖北教会、賢者の塔、精霊宮と、主たる施設を訪れた。
なるほど、脚の筋肉を駆使した地道な捜査か。さすがはブラザー・サリマン、なかなか好感の持てる方法である。


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▲サリマン「………」

最初におとずれた教会の御坊とだけは、多くを語らずとも通ずる部分があった。おそらく御坊もそうだったであろう。
しかしながら、結果を言えば聞き込みは何の成果ももたらさなかった。ハーゲンに関する情報はまったくなかったのだ。
金色の髪の戦士風の青年が、眉をひそめて唸った。


「……中々だな」

「…ウム、ハーゲンの行方、ようとして知れん……」

いや、そうじゃない、と彼は首を振った。キンと高い音がした。鯉口を切ったのだ。


「おう、お前ら……」

見れば、我々はリューンの広場で10人ほどのごろつきに囲まれていた。
リーダー格らしい一人が進み出ると、「ハーゲンのことを聞き回っているらしいじゃねえか」とぶしつけに我々を睨みつけた。
…今なんと言ったか。ハーゲンだと?


「ええ、まあね。……だったら、誰か困ります?」

「…何!?」

ブラザーが答える。

「……あなた達をここへ送った者が誰か、教えて欲しいだけですよ」

「てめえら、それが狙いか!」

――なるほど。
我々の聞き込みがトルキシャの連中に不都合なら、無頼の輩が警告に来る。それを逆手にとりおびきだしたのか。


「やっちまえ!」

ごろつきどもは暴力に訴える手段に出るらしい。私の筋肉を以てしてもそれは容易に予想できたことであった。
しかしながら、彼らが持ちだした物には驚愕を禁じ得なかった。


ScreenShot_20130627_034312592.jpg

なんと、弓だ!繁華な広場でそのようなものを使用するとは!

「きゃっ!?」

「シェリィ!」

出し抜けに飛来した矢が、帽子の娘の腕をかすって石畳へ突き立った。
私は怒りを覚えた。だが、それより早く吠えたのはユーリと呼ばれていた戦士風の青年であった


「…街中で飛び道具だと!?ふざけるんじゃないぞ!」

彼は続いて飛来した矢を抜きざまにたたき落とし、勇敢にもごろつきどもへ猛進していく。なかなかの手並みである。
他の冒険者達もすみやかに彼に続いた。罵りあいつつも、すでに接近戦に持ち込んでいる。
的確な判断だった。あるいは町人への流れ弾を避けるため、わざと身を晒したのかもしれない。


「――!」

そして、最後の矢は我らがブラザー・サリマンがカウンターで放ったクロスボウの矢によって、発射前に叩き落とされていた。
弓を取り落としたごろつきは腕を押さえて呻いている。
すばらしい。私は奮起した。


「遅れはとらんぞ、ブラザー!HAHAHAHAHA!!」

「…ちょ、人のいる所でブラザーって言わないで! 通行人の皆さん!他人ですっ!この人は他人なんですよ!!」

「照れることはないぞ!ブラザー!HAHAHAHAHA!!!」

いやあ、めずらしく面白いほど動揺してるなあ、とアサトは思った。





小競り合いはあっけなく収束した。
叩きのめしたごろつきから、冒険者達は手際よくターナーという人物の名を聞き出し、我々は盗賊ギルドへ足を向けた。
ターナーの居場所を知ることは難しくなかった。
『笹色雉』と名乗るギルドの有力者から、幾らかの銀貨で彼女の情報を買うことに成功した。

ターナーは女魔術師で、邪神の力を借りるという。
――ハーゲンはそこにいるのだろうか? なぜ、完成された筋肉を纏った彼が魔術師などの元に身を寄せるのか?

飲み込み難い気持ちを抱えながら、私たちは魔術師のアジトへと向かった。



後編へ続く
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