2013.06.11

きまぐれリプレイ『奇塊』

一度はやってみたかった 奇塊です。
続きからどうぞ。




もぐもぐと丸パンを頬張りながら、毎朝の流れ作業――依頼のチェックを行っていたサリマンは、ふと一枚の貼り紙に視線を止めた。

『冒険者求む』

やや硬い文体で綴られた依頼文である。
筆跡にしてもそう汚いというわけでなく、すらすらと読み取れる文字で記されている。
ある程度教養のある依頼人だろうなあ、と考えながら最下部まで目を通すと、ふと合点がいった。


「(ああ、なるほど、役所からの依頼か)」

リューン清掃局調査班、ダスキン・モップ……依頼人の名であろう。
そもそもその貼り紙に目を留めたのは張り出されて間もない形跡があったからであるが、公的機関からの依頼となれば出所もしっかりしており、実入りも期待できるかもしれない。
亭主に話だけ聞いても損はあるまい。パンの残りを口につめこんで貼り紙をピッと剥ぎ取ると、サリマンは踵を返した。


「親父さん、この貼り紙…」

「ビンゴ!はいはい!、それ僕ですっ!」

「びんご?」

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カウンターに座っていた若い男が突然、話に割り込んできた。
ひょろりとした身体付き、そばかすに丸眼鏡の、頼りなさそうな印象を受ける若者だった。年の頃は20代半ばを過ぎた辺りだろうか


「いやぁ、今日はついてるなぁ。貼り紙出した途端に大当たりだ。
 あ、ごめん、自己紹介が遅れたね。僕はダスキン・モップ、リューンの清掃局の者です」

どうもどうも、と馴れ馴れしい様子で歩み寄り右手を差し出してくる。はあ、と生返事をしながらサリマンは握手に応じた。
――ダスキン・モップ?ということは……


「…ああ、あなたが依頼人。いらっしゃると思わなかったもので失礼しました。どうも」

「これはこれはご丁寧にどうも。いやぁ、ここの宿には初めて来ましたけど、冒険者にも丁寧な人はいるもんだなぁ。
 それにしても冒険者って職業はいいねぇ。自由で気まま、うらやましい限りだ。お給金、どのくらい貰ってるの?」

依頼人の油紙に火が付いたような長舌に対してはやや苦笑したが、無難な受け答えをしながらやんわりと本題を促す。
おっとそうだった、いつもそうなんだ僕って奴は、と悪びれた様子もなく笑いながらダスキンは依頼の話を切り出した。


「実はちょっと汚い話なんだけどね。君たちに頼みたいのは下水道の大掃除なんだ」

「…下水道の掃除ぃ~!?」

素っ頓狂な声が割り込む。サリマンがちらりと横目をくれると、いつの間にか隣にやってきていたアサトが不満そうな顔で立っていた。
二人のやりとりを聞きつけたのであろう。


「そんなに嫌な顔されると困るんだけど…でも、汚い分、給金ははずもう。1200spでどうかな?」

どうかな?と依頼人はここぞとばかりにどや顔で報酬を提示した。
二人の冒険者は顔を見合わせた。確かに魅力的な金額である。


「(…どーする?掃除で1200ってなんか裏があるんじゃねーか?)」

「(いや、どうもリューン清掃局からの依頼みたいですよ。そのへんは信用していいのでは)」

「(こ、こいつ公務員なのか……の割には態度がさぁ)」

などとこそこそ相談しつつ、一応の結論は受けても問題ない、ということに落ち着いた。

「そうこなくちゃね。それじゃあ、早速行きましょうか」

「いや、ちょっと待ってくれ。あと2人いるはずだから呼んでくる」

言い置いて、アサトは小型の獣のような身の軽さで取って返した。
…エルトはともかく、シェリィはさすがに嫌な顔するかなあ、などと考えながら。






シャッ、と怖気をふるうような攻撃音を発して飛びかかってきたパイソンが、あやまたず放たれた魔法の矢で吹き飛ぶ。
しぶきを上げて着水した2m近い体躯はぴくりとも動かなくなった。


「さすがですねぇ!いやぁ、惚れ惚れしちゃうなぁ」

本職は違うなぁ、などと感心しきりのダスキンを横目に、エルトは静かに片腕を下げた。
靴の裏に汚水を踏みしめながら振り返る。
普段は膝下まで水位があるというのだから、この先で何かが下水を詰まらせていることは明白であった。


「……で、何か見つかったのか」

「あっちに扉がありましたよ」

サリマンの先導に従って扉を開くと、とたんに生臭いヘドロのような悪臭が鼻を突いた。
小部屋の隅にはゴミが山積みされており、窓もない部屋であることも手伝って耐え難いほどの惨状を呈している。


「うえぇ、なんだよここは……」

「ここはごみの集積場です。定期的に下水道の掃除をして、その時に出たごみをここに集めておくんですけど…」

掃除が終わったら、ちゃんと片づけておけって言ったのに…全く、アルバイトの連中と来たら……
ぶつぶつぼやいていたダスキンは、びしゃびしゃという不快な音にはっと我に返った。


「…ちょ、ちょっと、なに散らかしてるんですか!給金から差し引きますよぉっ!」

「…なにって、手がかりがあるかもしれねーだろ。手伝えよ公務員」

「こんなところにあるわけないでしょっ!ごみしかないですよ!あーもう、また上司に叱られちゃうよぉ~」

頭を抱えるダスキンをよそに、冒険者達によって汚物は手際よく散らかっていった。
8割方ヘドロの山が崩されたところで、おや?とシェリスが手を止める。


「…なんでしょうか」

大きな鞄ほどもある鉄の塊が、汚物にまみれて顔を覗かせていた。

「鉄の箱…ですかね? 天頂部に取っ手が付いてますけど…」

休憩を入れる一行の代わりに、ダスキンが発掘された鉄の箱を検分している。
ためつすがめつしているうちに、その側面に旧文明の文字が彫り込まれていることが判明した。


「えーと……」

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「…ろけっとらんちゃー?」

「知っているのかエルト」

……聞いたことがあるような気がするが、思い出せん。ややあってエルトはそう答えた。
だが、何か引っかかるものがある。念のため持って行ったほうがよいだろう、との結論になった。


「そんな物を持って行くんですか?冒険者ってのは物好きですねぇ~」

「……ってやっぱりオレが持つんかい」

箱の重さにひょこひょこと間抜けな足取りとなったアサトをしんがりに、一行は小部屋を後にした。





「……で、これはなんですか」

ScreenShot_20130610_163914928.jpg


さあ、と誰ともなく答える。
四角い箱にぎゅうぎゅうに押し込められたボールのような黒い物体が、完全に水路を塞いでいる…。


「……兎も角、これが元凶である事は疑いようが無いな。アサト、調べてくれ」

「…えっ!?オレ!?」

エルトは頷いた。
鉄の箱は持たせるわ正体不明の物体は調べさせるわ、人使いが荒すぎる――
ぼやきながら、アサトは鉄の箱を一行の後ろに置いて、そろーっとそれに手を触れた。


「…ざらざらしてる。あと、むにゅむにゅしてる……」

「……あの、さわり方どうにかなりませんかアサトさん」

「う、うるせー。怖いだろ、だって」

さわさわと絹を撫でるような手つきになるのも致し方なし。
ひとしきりなでなでしたあと……


「…!」

アサトが弾かれたようにバックステップで距離を取る。冒険者3人が身構えるのは素早かった。

「うひゃあっ!?どどど、どーしたんですっ!」

「こいつは……」

アサトは投擲用ナイフを一本抜き出すと、黒い塊へ向けて投げ放った。

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弾力のある表皮にそれが突き立つと同時、巨大な裂け目が現れた。
ひいてはそれが巨大な瞳であることを認識した瞬間、公務員の悲鳴が水路に響き渡る。


「――ビホルダーか!」

「ビホルダー!?なんだそりゃ!?」

「古代王国期の魔法生物。頭部の触手から催眠音波と石化光線、人体を破壊する光線を発する」

「むちゃくちゃな生き物だなああっ」

アサトは舌打ちした。まともにやりあって勝てるかどうか――

「…ええい、やるんだろ、どっちみち!援護してくれ!」

鋭い音を立てて大振りなナイフが引き抜かれた。駆け出した背中が汚水を跳ね上げる。
サリマンはクォレルを番え、シェリスは精霊を呼ぼうとしている。

一方エルトは考え事をしていた。


「ま、魔術師さぁんっ!?戦わなくていいんですかっ!」

「……いや…今、重要な事を思い出しそうで――」

「……そんな悠長なっ!」

ああ、とエルトは顔を上げた。ダスキンへ向き直って、彼の足下の鋼鉄の箱を示した。

「公務員。それにスイッチか引き金のような物は無いか」

「へっ?」

ダスキンは足下の箱に取り付いて掌を滑らせた。
側面の旧文明の文字に指先が行き至ったとき、カシャンと銀色の表面がスライドした。


「あ……あったっ!えーと、なになに……『ふぁいあ』!?」

「良し。――サリマン、シェリス。下がれ」

エルトはかの巨大な肉塊に改めて向き直った。





ずん、とナイフが巨大な一つ目に突き立った。
戦士の全体重を乗せた渾身の一撃に、奇怪な魔法生物はたまらず咆吼を上げる。
それに紛れて、背後からダスキンがなにやら叫んでいる声がアサトの耳にかすかに聞こえた。


「―――冒険者さんっ!下がって下がって!『これ』使いますよーっ!!」

「……はいぃ?」

ちらっと振り返ると、なんだかよく分からないが戻れということらしい。
OK、と叫び返して後退しようとした瞬間、アサトはふわりと浮遊感を覚えた。


「……あらら!?」

死角から到来した触手に片足を絡め取られている!
天井近くまで吊り上げられたアサトへ、触手の先の瞳がいっせいに狙いを定めていた。破壊光線の煌めきを纏って。


「あ、あはは…こんちは」

…何をやってる。エルトは舌打ちした。

「――公務員、3秒後に撃て。アサト、お前はなんとかして避けろ!」

「アイアイサーっ! …スリー!」

ダスキンモップは鋼鉄の箱を構えた。

「…ええええええっ!!」

「トゥーッ!」

それにしてもこの公務員ノリノリである。

「ワン!!」

「…ははは。よぉし、死んだら不死者の王に、オレはなるぞ。ゆめ忘れるな、みんな呪っちゃうぞー」

アサトは将来の夢を決定し、サリマンとシェリスは故人(予定)の冥福を祈った。
ビホルダーの触手の煌めきがいっそう強まる…!


「ダスキーン・モップ!!ファイヤー!!」

刹那、ダスキンの構えた鋼鉄の箱から、燃えさかる弾丸が飛び出した。
下水道を塞ぐ奇怪な塊へ真っ直ぐに飛来し、激突すると―――

パアン、と猛烈な破裂音を立てて怪物は跡形もなく吹き飛んだ。
堰を切られた汚水が濁流となって冒険者達に襲い掛かる!


「び、び、び、ビンゴぉぉぉっ!!」

互いの安否を確認する間もなく、冒険者と公務員は汚水の津波に飲まれた――





数時間後、なんだかんだで無事に帰り、無事に報酬を受け取った冒険者達は
「もう二度と下水道なんて行かないよ」と親父に語ったきり泥のような眠りに落ちたという。




投げやりなエピローグである。
改めて、groupASK様のシナリオで『奇塊』でした。大変なことになった気がする。
みなさまご存じのシナリオですので改めてコメントすることもないのですが、一言だけ…

やっぱり楽しかった!


掲載内容に問題がある場合、お手数ですがくもつまでお知らせ下さい。
対処致します。

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