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2013.05.27

きまぐれリプレイ『おいしいごはんの作り方』:前編

きまぐれリプレイ第2回、『おいしいごはんの作り方』です。
続きからどうぞ。





「――よしっ、できたよっ!食べてみてっ!」

厨房から躍り出るなりスープ入りの皿を鼻先へ突き出してきた彼女を、アサトはぎょっとした顔で出迎えた。

「カ……カチュア?来てやがったのか……」

今日くもつ亭に残っている顔ぶれ――アサト、エルト、サリマン、シェリスの4人は、1階でのんきにくつろいでいたのだが。
彼らの様子などおかまいなしで、カチュアは嵐のごとく一行の前に皿を並べていった。陶器の小気味よい音がリズミカルにテーブルを叩く。いつものように、強引で自信たっぷりな仕草である。

冒険者達がスープ皿をのぞきこむと、ブラウンのスープの中に、やわらかく煮込まれた野菜や肉がごろごろ浸かったポトフ風の料理のようであった。
木製のスプーンがあらかじめ添えられたそれはふわふわと出来たてのあたたかい匂いをただよわせ、鼻腔をくすぐり、一行の食欲を刺激した。
実においしそうである。……ぱっと見は。


「(……ぱっと見はな)」

アサトはスープ皿から、目の前に仁王立ちした女性へうろんげな青い目を移した。
金色の巻き毛。赤い瞳を得意げな笑みに細くしている。
そこに立っているのが“短冊切り”のカチュアでなければ、冒険者達はよろこんで据え膳に手を付けたであろう。

カチュアはこことは違う宿――、青狸の袋亭に属する女冒険者だ。
料理好きが高じて冒険者となった彼女は、各地の珍品や古代のレシピを求めて冒険し、新たな食材や料理を見つける度にそれを再現しようと試みる変人である。
レシピの内容によっては、厨房が狭い自分の宿からはるばるこのくもつ亭へ厨房を借りにやってくる。
彼女がここで料理を作るさい、味見という名の毒味役に選定されるのが、だいたいアサトら一行なのであった。
一行は個人的に“悪食”のカチュアと呼びたいくらいだ、と常日頃こぼしている。


「……って、またいつものですか、カチュアさん。どうやら悪食ぶりは健在みたいでなによりですが」

シェリスも、帽子の下から困ったようにカチュアを見上げた。
カチュアは頬を膨らませて抗議する。


「ちょっと、ひどーい。悪食って何よ、悪食って!異郷の食文化を馬鹿にすんな!」

「…あのなー、急に押しかけてきて虫の幼虫やら、生のデビルフィッシュやら、革靴やらふるまわれる身にもなれっつーんだよ」

アサトが横から口添えする。その言に、カチュアは頬に朱を上らせて「うぐっ」とうめいた。いや、革靴は悪かったわ、と咳払いをしながらもごもご言う。
前回参考にしたレシピが喜劇の台本であったのに気が付かなかったのだとかなんとか。

で今回のはなんですか、スプラッタホラー劇の台本ですか、とサリマンがやや投げやりに問うと、普通の料理本ッ!とむくれた答えがはね返ってきた。
絶対おいしいから、とカチュアはさらに言い募る。


「…お前の"絶対"おいしいはリューン競馬の着順予想くらい当てにならねーんだよ」

「ひっどぉーい。もぉ、いいから食えっ!」

アサトは舌打ちした。誰がいく、と視線で仲間たちへ問う。
3人とも、さも当然というように一点に視線を返した。


ScreenShot_20130522_204448339.jpg

「マジかよ……でもそんな気はしてたよ……」

視線を反らしてアサトはうなだれた。

「アサトさん、食べるの好きじゃないですか。カチュアさんとも相性がいいのでは」

「……コラシェリィ、適当なこと言うな。確かに食うのは趣味だが、ゲテモノ好きになった覚えはねえぞ」

釘をさして、木製のスプーンを掬い上げる。
乾いた咽喉を鳴らして、一口――


「……ど、どう?」

「…………」

…あれ、意外といけるんじゃねえか、とアサトは言おうとした。
カチュアにしても食材選びに難があるだけであって、彼女の料理技術をまともに用いればかなりおいしいものが出来上がるのは当然なのだ。
ただ、そう―――まともに作ってくれないだけであって。


ScreenShot_20130522_204601139.jpg

「#&○%☆*!!!!」

直後にスープを吹き出して椅子から転がり落ちるさまを見て、エルトとサリマン(と、宿の亭主)は「あ、やっぱな」という表情を浮かべた。

「うふふ……大きな星が点いたり消えたりしている……彗星かな?
 いや、違う、違うな……。彗星はもっと、ばあって動くもんな……」

「思ったよりも重傷だな。被害が最小限で済んで何よりだ」

「…ええ、貴い犠牲でしたが、全滅よりはずいぶんましでしょうね。アサト、安らかに……」

「カミ……アサトさん!しっかりして下さい、寝たら死にます!!」

「親父さんっ!水、水~!お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか~!?」

白昼の凶事に閑静な冒険者の宿は一時騒然となった。





「――ったく、なんつーもん食わせるんだ、てめえはっ!」

復活したアサトは、なぜか額の上に供えられていたベニマリソウを食いちぎりながらカチュアに食ってかかった。

「…はは、面目ないっ」

カチュアはぱちんと手を合わせた。……でもおかしいなあ?確かにレシピの通りに作ったんだけどなぁ……
頭を掻きながらレシピのチェックを始めたカチュアをよそに、アサトは激昂状態であった。


「あとお供え物をするんじゃない!だれだ置いたのはっ!絶対サリマンだろ!?」

「まさかあ。証拠もなく人を疑うのはよくないと思いますよ」

「品物自体が動かぬ証拠だろこれ!!」

アサトとサリマンがやいのやいのと押し問答をくり広げる中、ややあって顔を上げたカチュアがぽんと手を打った。
エルトが訝しげにカチュアを見ると、カチュアはふたたび両手を合わせて頭を下げた。


「……?」

「…ごめん、材料間違えてましたっ」

“地龍の尾”を読み違え、“飛龍の尾”を入れたというとんでもない暴露であった。
飛龍の尾は暗殺にも使われる猛毒である。殺す気か。アサトは愛用のファイティングナイフをあわや抜きかけるところだった。


「テヘッ☆ ごめんネ。レシピ通りに作れば美味しいはずなんだけど……でも困ったわ。地龍(アースドレイク)の尻尾なんてめったに手に入るものじゃないし」

「……ふむ、地龍か。地龍といえば――」

今まで静かに皿を磨いていた宿の亭主が思い出したように口を開くと、飛びかからんばかりにカチュアが反応した。

「――っ!親父さん、何か知ってるの!?」

カチュアの剣幕に押されつつも、亭主は頷いた。

――亭主曰く、最近北東にある『シンクキングダム』という王国の郊外に地龍が現れたという。それは付近の村落に貢物を要求し、村人が従わなければ畑や入会地で暴れまわる。
…しかも、そんな状況を国の中央は完全に黙殺していると。


「…どうして?自国内でドラゴンが暴れまわってるっていうのに、そんなのおかしいわよ」

「…シンクキングダムといえば、隣国との戦争が噂されている。大方、その辺りの事情で騎士団が動かんのだろう」

疑問にはエルトが答えた。その通り、と亭主も首肯する。
地龍があらわれたのは国内でももっとも荒れ果てた不毛の土地。金にならない村落の連中は切り捨てられちまったのさ――、そう続ける。
くそったれな話ね、と吐き捨てたカチュアに対し、亭主は残念ながら自然な流れだ、と返してまた皿を磨き始める。
どちらの言い分にも共感する所はあった。状況を考えれば、けしてあり得ないことではない。

一行は沈黙した。


「………」

ややあって、一人が口を開く。

「…カチュア、一つだけ訊く。そのレシピ、まともに作れば本当に美味ぇんだろうな?」

「…え?」

きょとんとしたカチュアの鼻先へ、アサトはぴんと人差し指を立てる。
…ああ、これは悪い癖が出たときの顔だ。シェリスは心の中で思った。


「美味いのか、それとも?」

「…ああ、うん、勿論。レシピには、心の底からホッとする美味さと書いてあるわ」

「そうか。よし親父さん、ちょっくらシンクキングダム行ってくる」

その言葉に対し、亭主は面食らった表情で皿を拭く手を止めた。

「――いや、待て。依頼でもないのにあんな所に行って何になる?」

村落の事情は先の話の中にあった通りである。報酬には期待できんぞ、と空の掌を見せる。

「何言ってんだよ、親父さん。誰が金欲しさに竜退治に行くって言った?オレは――」

ScreenShot_20130522_205054960.jpg

「――食材集めに行くんだよ」

亭主はため息をついてつるりと額を撫でた。

「……で、お前らもか?」

そして、カチュアをふくめた他の4人にも視線を向けた。
―――かれらの答えは……




後編へ続く
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