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2013.05.02

きまぐれリプレイ『劇団カンタペルメ』:前編

本当にきまぐれなリプレイのようなもの。

続きからどうぞ。



「……すごい……」

馬車から降りるなり、感嘆のため息を漏らしたのはシェリスだった。

「これがミューゼルですか」

連なるレンガ屋根の家々。美しく敷き詰められた石畳。 
冒険者達の眼前に広がるその景色のどこにも、雑然としたところがいっさい見受けられないのである。


「完璧な都市計画に基づいて設計されてるそうだからな。
 街そのものが、一級の芸術品と言っても差し支えないと思う」

それを引き取って答えたのは、一行の参謀たるエルトである。
彼の言うことには、画家、作家、俳優から曲芸師まで、あらゆる芸術活動に携わる人種が集う街だという。
芸術都市ミューゼル。今回の依頼は、この街の劇団、『カンタペルメ』よりのものである。


たどり着いた劇場は、ひっそりと静まりかえっていた。
呼べど叫べど答えがないため、首を傾げながらも冒険者達は勝手に奥へと足を進めることにし、はたして彼女(?)の姿を発見した。


ScreenShot_20130502_053642301.jpg

「アタシのところより、あんな芸術性の欠片もない金集め劇団のほうがいいっていうの?」

波打つ赤毛に厚いメイク。ひたすら嘆いているようだが、劇場関係者だろうか…?
ややあって、女性なのかそうでないのかの判断をとりあえず諦めたアサトが声を掛けた。


「…あのー、すいません。依頼受けてきた冒険者なんすけど」

しかし、嘆く彼女(?)の耳には届いていないようである。

「……もしもぉーし?」

それから何度か無視されつづけ、もう帰ろうかムードが一行の間にただよいだした頃、目頭を押さえたハンカチの向うの視線がはたと冒険者達を捉えた。

「アナタ!!」
「……!?」

猛然とこちらへ突進してきた彼女(?)の迫力に、さすがに圧倒されたらしい。エルトは一歩後ずさった。

「アナタ……その瞳。その表情。その佇まい!只者じゃないわね!」

「…いや、だから冒険者だと先刻から…… 手を握るな」

「素晴らしいオーラだわ。幾人ものトップスターを見出してきたアタシだから分かる。アナタは、役者になるために生まれてきたの。とてつもない最高級のダイヤの原石なのよ!」

まったく話を聞いていなかった。

「アタシに、アタシに磨かせてちょうだい!あら、他に都合よく五人もいるじゃないの!」

ようやく6人の冒険者の姿を認めた彼女は、そうして衝撃的な言葉を放ったのである。

「よし決めたわ、アナタたちで『シンディーリア』を演るわよ!」

『………!?』

そういう事になったのだった。



ライバル劇団『ボヌッチ』に、役者達が根こそぎ引き抜かれてしまったのだと、赤毛の座長は語った。
以前よりの度重なるいやがらせで、団員達の気力が削がれていた矢先の出来事だという。


「――でも、アナタたちが来てくれた。芸術の女神ミューゼルはアタシたちを見放してはいなかったのよ!」

「だから手を握るなと。
 …当初の依頼はそのいやがらせを何とかしてくれという内容だった筈だ。話が随分変わっているが、それは『依頼』と受け取っても良いのか?」

そうね、と座長は頷いた。このまま公演を続ければ、いやがらせも続くだろう。
報酬は、元の報酬プラス、公演の収入の1割。
そういった内容で、異論もないわけではなかったが、一行は依頼を承諾したのだった。


「座長―――――!た、大変ですぅ!」

……その直後に、さらなる難関が飛び込んでくることなど、つゆ知らず。



そうして最終的に、一行は『シンディーリア』を演じながら、相手側の放った冒険者の犯行を食い止める……という、離れ業をやってのける事になったのだった。

ScreenShot_20130502_054139323.jpg

―――公演を中止しなければ、"ミューゼルの美"と称される劇団の宝物である宝石を奪う。

そういった旨の文書が劇場に届けられたのだと、照明係の少女は間延びした口調で答えた。
窃盗罪で治安隊へ届け出る……という案は、公演ごと中止させられる可能性が高いために出来ない。
また公演中以外の時間、劇場は厳重に施錠されているため、狙われるとすれば公演の最中である。

つまり……
壇上の者が客席を見張り、その時控えているメンバーで、"ミューゼルの美"を守る。
そういった作戦だった。


「……はぁ。なんか大変なことになってきてしまいましたね」

そうぼやいたサリマンに、アサトは半笑いで深く頷いた。
公演本番まで、あと3日。




「…じゃ、まずは立候補でいこっか。――シンディーリアやりたい人!」

ミネルバは一行を見回した。

『シンディーリア』の劇は6人の役者で構成される。

主役である、美しい娘『シンディーリア』。
シンディーリアと恋に落ちる『弟王子』。
その双子の兄弟である『兄王子』。
1場にしか登場しない、シンディーリアの友達である『娘』。
シンディーリアの『姉』。
そして『語り手』である。


『………』

「……いないの?それじゃ、弟王子やりたい人は?」

「ハイハーイ!王子がいい」

「はい、アサトだね。…じゃあ、次は兄王子やりたい人!」

「ハイハイハーイ!」

その手を降ろさせて、ミネルバは仕切り直した。

「……ひとり一役だからね、アサト。それじゃ、語り手やりたい人はいるかな?」

「はい」
「私も」
「(挙手)」

サリマン、シェリス、エルトである。
3名の挙手の勢いの良さにミネルバは驚いて軽く翼をばたつかせた。


「わあ!…びっくりした。やる気満々なのはいいけど、ナレーション3人もいらないからね…!?」

実際の動機はと言うと、3人とも、あまり表に出なくてよさそうという理由だったのだが。
そのあまりの偏り具合に、進行を買って出た彼女は暫し頭を抱えることとなった…。




ScreenShot_20130502_055956126.jpg

「……うん、完璧っ」

十数分後、満足げに呟くミネルバの姿があった。

「いや……待て。何故俺が弟王子なんだ」

混ぜ返したのはエルトである。
アサトの方をちらりと見て、逆だろう、と言いたげに片眼を眇める。


「いいだろ別に、オレが兄貴でも。…なあシンディー?」

「―――えっ」

…私に振るんですか。目に見えて動揺しながら、シェリスはそれだけ答えた。
アサトはと言うと、心なしかにやにやしている。


「…いえ、その、あの。……いいですけど。エルトが弟王子で」

「……。逆の方が良いと思うんだがな。 …まあいい。たかが芝居だ」

「……そうですね」

「あら、ちょっと今のは聞き捨てならないわね。たかが芝居ですって?」

すかさず聞き咎めた座長の低い声にくるりと背を向け、エルトは肩を竦めた。
そしてシェリスは、安堵の気持ちとかすかな心のわだかまりを抱えながら、アサトの脇腹にそっとヒジを見舞ったのだった。




「語り手はサリマン。われながら適役だと思うんだけど、どうかなあ」

「…というか、他に私に出来そうな役が見あたらないですけどね」

「そうかなぁ。座長さんは心で選べ!…って言ってたし。なんなら姉と替わってもいいよ」

「鬼ですか。語り手がいいです」

サリマンはそっと辞退した。

「それから、ユーリはシンディーの友達」

「……なあ、僕の配役、明らかにおかしいだろう……性別が」

「ユーリ、興味なさそうだったから僕が決めたの。異論はなし!」

「……確かに鬼だな、君は」

ユーリはしょげた。
そうして、役者は揃った。




本番までの3日間は、嵐のように過ぎ去った。

配役のあと、初日に基本の発声練習をこなした彼らは、2日目には台本の読み合わせ、3日目には立ち稽古…という、無謀としか思えないスケジュールで駆け抜けていった。
寝る間も惜しみ、また時には夢の中でまで『シンディーリア』に取り組むうちに、最初は「間に合わせにすぎる」とぼやいていた幾人かも、いつしか真剣な表情を見せるようになっていた。
依頼だからという冒険者の矜持だけでなく、座長を始め、おたがいの熱情にあてられた結果だったのかもしれない。

そして、舞台に立つ朝はおとずれた―――





後編に続く
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